「うまい!!」
城下町の大通り沿いにある、小さな飲食店からその元気な声は聞こえてきた。カウンター
に、でんと居座って一心不乱にご飯を食べているのは、もちろんエルネスだった。左手に、
いい色に焼き上がっているパンを持ち、右手に持ったフォークで肉料理をおもいっきし刺
して食べている。その横には、すでに平らげられ空になった皿がいくつも積み重なってい
た。うれしそうな顔して食べるエルネスとカウンターを挟んで反対に、リームとその母親
がその様子をうれしそうに見ていた。
「お代わりまだまだあるよ、エル。」
その言葉に一瞬エルネスの目がキラリと光ったが、すぐ考え直したように頭を振った。
「いや、ちょっと調子に乗って食い過ぎた。ただで飯を食わせてもらっているのに。」
「リームがお世話になったんだもの、気にしなくていいのよ?」
優しく言ってくれるリームの母親に感謝しつつエルネスはフォークを置いた。
「たいしたことはしてないですよ。ごちそうさま。」
そういうと、すくと立ち上がる。パンがいっぱい入ったバスケットは、抱えたままだったが…。
「それに、アルトに言われてんだ。昼過ぎには帰ってこいって。」
その言葉に親子もああ、と納得する。
「それは帰らないと大変ですね。」
「アルト怒ると怖いもんね。」
まったくだ、とエルネスは苦笑いをした。そこでリームの母親はぽん、と手を叩いた。
「だったら、ラムベリーのパンをお土産に持っていけばいいわ。」
「それは助かります、アルト、ラムベリーのパンが好物ですから。」
以前お土産に持って帰ったら、ラムベリーのパンだけきれいになくなっていたのを思い出
してエルネスは少し笑った。真面目な性格しているくせに、以外と偏食な上にたまに食事
をすることを忘れるので、そういう時だけエルネスがめずらしく叱って食べさせることと
なる。
―ああでも、食うときは異常なくらい食うんだよな。
そう物思いにふけっていたところで、リームの母親がラムベリーのパンを持って帰ってきた。
「はい、エル。」
「ああ、ありがと……お?」
持っていたバスケットで受け取ろうと、バスケットを持ち上げるといっぱい入っていたは
ずのパンがきれいさっぱりなくなっていた。
「あれ?」
しかもよく見るとさっきと違うところがもう一つ。エルネスの足下に見知らぬ男の子が一
人立っていて、無表情にバスケットのパンをモグモグ食べていた。親子もその姿に気づき
首をかしげる。
「あら?近所の子かしら?リーム知ってる?」
「ううん、しらない。」
見た目が七、八歳と娘と大して変わらない年だろうと思い、母親は娘に尋ねたようだが、
リームも心当たりがないらしく不思議そうな顔をする。親子がそんな会話をしているなか、
エルネスは男の子の髪の色をじっと見ていた。男の子の髪の色は鮮やかなオレンジ色で、
月の国の住人には、そんな髪色を持つものはいなかった。月の国の住人は、エルネスのよ
うな黒色や、それに近いグレー、焦茶色など暗めの髪色を持つものが多い。
―オレンジ色…よその国でもそうそうみない色だが…これは…。
男の子はエルネスや親子の視線を気にすることなく、無言でモグモグとパンをすべて平ら
げた。そのまましばらくボーッとしていたと思うと、くるりと背を向けて店の出入り口に
向かおうとして―





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